3月は別れの季節ですね。
こぶしや白木蓮のふくらみをまぶしく感じながら、先週の金曜日のことを思い出しています。
友人のかけがえのない伴侶だった、Eさんが旅立ったのです。亡くなった日の深夜、私と主人は彼女の遺影を届けに、友人宅に伺いました。そして、眠るようにしている彼女の枕元で、引き伸ばした昔の写真を並べて語り合いました。
実はEさんは、若年性のアルツハイマーだったのです。記憶がほとんど薄れかけたある日、友人は押入れの中にある小箱を見つけました。開けると彼が見たこともない写真やネガがいっぱい出てきたのです。
もともと美大で知り合ったアーティストのふたり。もしかしたら写真を見せれば過去の記憶が呼び戻せるかもしれない!そう思った彼は、老眼でも眼鏡をかけたがらない彼女のために、写真を拡大することを思いつきました。
私たちの元に届けられた写真やネガの中のEさんは、女優さんのように美しく愛らしく、同姓から見てもため息が出るぐらい素敵でした。
写真を拡大し手渡せたのは暮れが押し迫ったころ。さっそく、友人がEさんに見せると、なんと彼女はそこに写っている親友の名を口にし、笑ったのです。一瞬であっても、記憶が写真によって戻ったことを、彼はたいそう喜びました。しかし、その3ヶ月後に、彼女は帰らぬ人となってしまったのでした・・・
告別式の日。色とりどりの花に囲まれた祭壇には、一台のスクリーンが置かれていました。音楽が流れる中、彼女の写真が映写されると、生前のEさんの人となりが甦り、弔問に訪れた人たちの涙を誘いました。
「あなたに会えたことが、ぼくの人生で最高のことだった・・・」友人のお別れのことばの深さとともに、写真の持つ未知の力を感じたできごとでした。